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2024.08.07

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研究開発部門の技術を社会実装につなげる HCD の実践

ソニーでは「顧客体験(UX)」を品質の一部として捉えた商品開発・デザインを行っています。 研究開発部門でもこの顧客中心の考え方は重要で、このアプローチで技術の用途・顧客価値探索から社会実装につなげるUXチームの活動を紹介します。

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はじめに 

ソニーグループ株式会社の研究開発部門でHCD (人間中心設計) プロセスを実践している智内志帆です。
ソニーでは、「顧客体験(UX)」を品質の一部として捉えた商品開発・デザインを各社・各部署にて行っています。
そのため、エンジニア自らが「この技術は誰がどの状況で使うのだろう?」「その技術を使った価値ある体験とは何だろう?」ということを考えることが重要です。研究開発においても、そうした顧客中心の考え方をふまえて技術の用途探索や価値策定ができるメンバーが集まり、部署横断のUXチームとして様々なプロジェクトに参画し活動しています。 本ブログでは、ソニーネットワークコミュニケーションズからサービス提供もされている予測分析ツール「Prediction One」の更なる進化をめざし、私たちが研究開発部門で取り組んでいる顧客体験を考慮した開発とその過程について紹介します。 

なぜHCDの考え方が必要だったのか 

Prediction Oneは「専門家でなくても予測分析ができる」をコンセプトに、機械学習や予測分析の専門家でなくても数クリックで予測分析ができる予測分析ツールです。
開発当時は、機械学習のエキスパートであるエンジニアがターゲットユーザーにインタビューを行い、Prediction Oneのコンセプトである「専門家でなくても予測分析ができる」ことを実現するためのUIやUXを考え機能実装をしてきました。
しかし、ユーザーが増えていく中で新しい機能やUXを検討していくにあたり、ユーザーのフィードバックを実装していくだけではサービスとしての成長を続けることは難しくなります。また、ユーザーとひとことにいっても、多様なユーザーの多様な意見をプロダクトに反映するだけでは誰のためのものなのかわからなくなってしまいます。
そこで、戦略的にUX向上を検討していくため、私はHCDの専門家としてPrediction Oneのプロジェクトにジョインしました。

HCDプロセスで「使う人は誰なのか?どんな状況で使うのか?」を明らかにする 

前述のとおり、Prediction One の開発において、ターゲットユーザーへのインタビュー結果や、ユーザーからのフィードバック結果などはすでに存在していました。まずはその大量の定性データを分析するところから始めました。
具体的には、インタビュー結果である発話データからユーザーの行動である部分を抜き出し、その行動を行うに至った原因や背景を踏まえて、ユーザーの達成したい価値を導出しました。また、KA法と呼ばれる手法を利用して、ユーザーの言語化できていない潜在的な価値を見つけました。そして導出した価値が書かれた100枚を超えるカードをKJ法でグルーピングしていきました。グルーピングする時には、価値同士の繋がりや関係性を考えて可視化していきます。これで体験価値の構造・全体像が見えるようになりました。
この全体像から、重視する価値が違う3つのペルソナを作成しました。
そして、それぞれのペルソナが現状「Prediction Oneを使って予測分析を行う」カスタマージャーニーマップを作成しました。 

Prediction Oneを使いユーザー自身も成長できるための体験価値の構造を視覚化すると、それぞれ3つのペルソナが見えてきた

それぞれのペルソナごとに現状のカスタマージャーニーマップを作成 

これらの結果から、どのペルソナのどの部分の体験を改善すべきかの優先順位をつけ、理想の体験となるための機能を検討するベースを整えました。 

行動データからもUX改善を考える 

Prediction Oneではユーザーの同意を得て使用状況データも取得しています。 
利用状況のアンケートやインタビューでは取得できない、リアルな行動データからもUX改善を行っています。 
ユーザーから「とても良い機能だと思う」というフィードバックがあっても、実際に使用状況データを見てみると使われていなかったということはしばしば起きてしまいます。そのような時に、対象とする機能を使うユーザーの想定の行動と、データからわかる実際の行動を見比べ、想定通りの行動になっていない部分のUXの改善案を考えます。 具体的には、どのペルソナに属するユーザーのどの行動フローにおけるUXを改善するのかを定め、その部分のシーケンスデータを抽出し、実際にユーザーが取った行動の流れを追体験します。その追体験の中で「なぜ想定外の行動が発生してしまったのか」を洞察していきます。そして、現状のUXのどこを改善すればこの問題が解決されるかを考えて、具体的な施策案に落とし込み機能改善につなげていきます。

データからページの滞在時間なども踏まえてユーザーの行動を追体験。なぜこの滞在時間でこのボタンを押したのか、なぜ画面遷移をしたのか、などを洞察する

HCDプロセスを研究開発部門に取り入れる価値

これまで説明したように、Prediction Oneでは、HCDを考慮した取り組みを行う地盤を整え、開発プロセスに組み込みました。作成したペルソナやカスタマージャーニーマップは、一年ごとにその年の追加調査などを踏まえてアップデートし、それを用いてUX改善計画を立てるというサイクルを回しています。
このように、ペルソナやカスタマージャーニーマップは一度作ったら終わりではなく、実態に合わせてアップデートしていくことが重要です。

また、長期的なプロダクトの成長、という視点で「プロダクトの中期計画」と開発メンバーが思う「Prediction Oneを使ってユーザーにどうなって欲しいか」という目線もジャーニーマップに加えるようにしました。プロダクトの技術的な進化が、ユーザーの体験価値向上に直結するとは限りません。最終的にユーザーに使ってもらう技術の進化を考えるときは、その技術を使うユーザーがどういう嬉しい体験ができるのかを考える必要があります。

研究開発部門で「技術を誰にどう届けるのか」といった視点を考慮できるHCDの考え方を取り入れることは、社会実装につなげるためにも価値のあることだと思っています。 

さいごに 

冒頭の通り、私たちUXチームではこういった開発に加え「ソニー内の技術が誰のどの課題を解決できるのか?」「その技術をどのように提供できるのか?」を考えた顧客価値探索を行っています。
技術だけではなく、世の中の「価値ある課題」に気付く必要があり、その課題に気付くためにHCDの知見や手法を駆使して、技術の用途探索から社会実装までのプロセスづくりを始めています。

 現在 こちらのページ でUX/HCDの専門家を募集しています。HCDのアプロ―チを使い新しい技術をどう顧客価値に結び付けて社会実装を加速していくかにご興味のある方は、是非ご検討ください! 

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